シェルドレイク(Rupert Sheldrake)の形態形成場仮説


1. 人物
 シェルドレイクはオックスフォード大学で生化学の博士号を取得した生物学者。現在の生物学では「生命は物理的、科学的な機械であり、DNAですべての生命の謎が説明できる」という信仰のようなものが科学者の間で信じられているが、彼はそれに異議を唱えている。

2. 形態形成場のひらめき
 例えば、遺伝子だけではどのように生物の形態が発達していくか(例えば胚の発生、擬態、昆虫の形など)を説明できない。植物の茎を切断しても、植物は培地の上で再生する。彼はこの植物のダメージからの再生の研究を行い、形態の発達について取り組んできた。「どのように植物は形を作るのか?」
 DNAや遺伝物質、さまざまな生化学反応の観点からすべてが理解できているような印象があるが、実際はDNAは単なる化学物質に過ぎず、どのように形を作るのかは理解されていない。DNAだけではなく、何か形態やパターンを形成する、影響を与える他のものがあるはずなのだ。これらは化学・物理的なものが想定されるが、未知のままである。
 植物の花びら、茎、葉、根のDNAはすべて同一である。そのためDNAだけでは形態の違いを説明できない。現在では異なる組織で働くホメオボックス遺伝子(他の遺伝子のカスケードをスイッチする転写因子をコード)に違いがあることがだんだんとわかってきているが、すべての構造の違いがこれだけでは説明できない。
 これに対して、シェルドレイクが唱えた理論が「形態形成場」理論である。この形態形成場が「目に見えないひな形」として有機体組織の発達形成を行う。彼は生物の形態形成にこのような通常の物理学に反する不思議な力を持ち出したことで、科学会から大きな反発を受けた。

3. 彼の考える形態形成場とは
 それは旅行者がその場から立ち去るときに、説明の付かない場(フィールド)を残すようなものだ。形態形成場は共鳴が関係する形やパターンについての記憶である。この記憶は過去の有機体から現在の有機体に伝わる。彼の考えではすべての生物が設計図としての形態形成場を持つ。

4. どのように伝わるのか
 この記憶は形態共鳴と呼ばれる、時空を通じて似たものが似たものに影響を与えるという作用で行われる。この場は磁場と似ており、種ごとにすべての生物が作る場であり、以降の発生で成長を導く。

5. 形態形成場の他の役割
 彼が最初に植物の形態について形態形成場の仮説を唱えた後で、この理論は他にも本能行動(鳥の巣づくり、カモが生まれてすぐに泳ぎ方を知っていること、アリの巣作り)にも当てはまることが考えられた。動物の神経系はこの形態形成場によって形作られているという可能性だ。そして彼は獲得形質の遺伝もこの理論(過去の種の記憶)によって子孫に伝わると主張する。

6. 結晶
 研究室では日々新規物質が生成されている。「グリセリンは潤滑剤、食品添加物、さらに様々な工業原料にもなる非常に重要な化合物ですが、発見から数十年間誰が何をやっても結晶せず、「グリセリンには固体状態というものはない」と思われていました。ところがある時、イギリスの貨物船に積まれていた樽詰めのグリセリンが、一本まるごと結晶しているのが発見されたのです。この知らせを聞いてあちこちの研究所から「グリセリンの種結晶を分けてくれ」という申し込みが殺到したのですが、不思議なことはここから起こりました。この日を境に、世界中の工場や研究所で、種結晶を入れてもいないのに一斉にグリセリンが結晶し始めたのです。製法も保存方法も変わったわけではなかったので、これにはあらゆる分野の化学者たちが首をひねりました。服や皮膚に微量の種結晶がくっついて入り込んだのではないか、という説まで出ましたが、種結晶が入らないようどれだけ気を使っても結果は同じでした。今ではグリセリンは17度に冷やすだけで、どこで誰がやっても簡単に結晶化します」。それまでどうあがいても結晶しなかったものが、一度固まるとそれ以後は(種結晶を入れなくても)簡単に結晶が出る現象にも、形態形成場が関係しているとシェルドレイクは主張している。

7. 結果
 ちなみに彼がこの仮説を『A New Science of Life』で出版したところ、Nature誌の編集長John Maddoxが物理や生物現象の説明に魔術は要らない、「焚書にすべき」というレビューを掲載したことでも有名になった。