世界の奇書・総解説 「奇書」110冊の大要と解題を掲載する読書ガイド。「神話学」「博物誌と旅行記」「聖書学」「偽書・暗号書」 「奇想文学」「疑似科学とオカルト学・予言学」「悪魔学」「性文学」「その他の奇書」の9部構成です。
その中でVoynich Manuscriptに関しては(3ページ分)、荒俣宏氏が担当していますが、かなり古い情報に基づいていますので、情報としてはそこそこですが、その他の「奇書」は結構楽しいので、まあいいかな。

(せっかくですから、本文から奇書についての概略が紹介されていますので、一緒に載せておきます。)

 世界には捏造された書物や、暗号を用いて執筆された「読み得ない書物」が多数存在する。こうした書物が存在する理由は、宗教的なものから単なる冗談に至るまで拡がりも大きいが、近代では経済的事情によるものが多いらしい。ギリシア人コンスランティン・シモニデス(一八二四〜六七)やスコットランドのA・H・スミス(生没年不詳)、ロンドンのT・J・ワイズ(一八五九〜一九三七)等の古書業者は、古写本の実物にニセモノを混入させて販売したとして悪名高く、食わせ物はけっこういた。
しかし偽書が興味ぶかいのは、架空の書物と異なり、実際にその内容を読むことができる点にある。史上有名な偽書作家は、詩人T・チャタートン(一七五二〜七〇)で、中世の牧師が書いた詩集というふれこみで刊行した捏造書は、偽書ではあったが詩才に富み、今日ではゴシック・リバイバルの先駆けとされる。またW・H・アイアランド(一七七七〜一八三五)はシェークスピアの遺稿と称する写本を多数捏造し、最後にはこの大戯曲家の忘れられた作品『ヴォーティガーンとロウェナ』を書き上げた。これらの偽書のうち最も奇怪なものはジョルジュ・サルマナザール(一六七九?〜一七六三)の『台湾誌』で、粗筋を本文に掲載しておいた。当時はこうした書物がどのように社会を震撼させたかを追ってみれば面白い。また最近の奇妙な例では、ドゴール大統領の鼻を皮肉るために全編架空の動物「リノグランデンティア(鼻歩類)」に関する進化論風報告からなる小冊子を出版したシュトゥムプケなる人物のそれが力作である。
 一方、暗号書は、教会の検閲がきびしかった時代に真実を伝えあう道具に利用された。本書にも掲載したように、有名なシェークスピアの全作品が実は同時代人フランシス・ベーコンの著作であり、その真相は全て戯曲に暗号として仕舞い込まれているという因縁も面白い。今日まで解読できていないボイニッチ写本をはじめ、以上なら来歴を持つ暗号書は、いつの時代にも真の奇書愛好家を魅惑しつづけてきた。
  −世界の奇書総解説(1991年改訂版), pp.103